こんにちは。
以前の記事で紹介しました、セルヒオ・ペレスのクラシックギターを恵比寿のドルフィンギターズで調整してもらいました。
今回は、調整について。
買って終わりじゃない。
セルヒオのギターを選ぶに至るまでに、3~40本は試奏した上で買いましたが、
このギターも、買った時点で100%完璧!というわけではありません。
問題点を抱えたうえで、購入を決断しています。
1.弦高が低い。
最初はこちら。
- 右手と弦の距離感が違う
- 低音弦で強く弾くとノイズが出る
- 特定のフレットを押さえると裏鳴りが出る
- 高音の音の幅がもっと大きくなると思う
人によっては低くて弾きやすいのかもしれませんが、僕は人よりやや強めに弾く傾向があるので、もうちょっと高さがないと気持ちよく弾けません。
2.弦の振動が正しく伝わっていない気がする。
「自分が加えた力」「楽器の震え方」「実際に出てくる音」の3つがどうも一致しない。なんとなく釈然としないのです。
音が弦から楽器に伝わる過程でロスがあるのでしょうか?
弦の振動が一番最初に伝わるパーツの一つである、ナットとサドルを見てみましょう。
サドルに横から光を当ててみます。

光が隙間から漏れています。

指でいじるとカタカタ動きます。
しかも、サドルの横幅が余っています。
納まりが悪い証拠ですね。
次にナット。

側面と底面はネックにぴったり納まっていますが、気になるのは上面、弦に触れる方。
弦が収まる溝が少し広かったり、溝の底面がガタガタしているように見えます。
これらの接触に空白があることは即ち、音が伝わる過程に大きなロスが生じることを意味します。
ということで、この二つを作り替えましょう!
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調整による効果。
ドルフィンギターズに預けて、1週間後に受け取り。

左が購入時のナットとサドル、
右が再作成のナットとサドルです。
これだけ並べても、あまりわかりませんが…

サドル。光が漏れなくなりました。

ナットも、弦のホールド感アップ。
弦高も1mm近く上がったかな?
気になる音は…
- 弦高が上がり、強弱の幅が大きくなった
- どのポジションでもノイズが出なくなった
- 基本的な音量が上がり、弾いた感触がしっくりくるようになった
- チューニングが合いやすくなった
思った通りの効果です。ドルフィンギターズさんいつもありがとうございます。
これ、1万円ぐらいでできるんです。やらない手はないですよね。
「こんないいギターで新品なのに、このあたりが雑なのはなぜだろう?」
と思い、後日、詳しい人に聞いてみました。
「海外の高名な製作家でも、細かい部分が雑な人は意外といるんだよ。
音に対するセンスがすごいから本体の構造は素晴らしいけど、細かい所は雑に済ませちゃう。
そういう人に本体を作ってもらって、日本人かドイツ人に調整してもらうのが正解だね」
意外な話もあるものです。
「調整込み」で楽器を選ぶ
「いや、買う時点でそんなエラーがあるなら何で買った!?」
という話にもなりますよね。正直、この文章を書いていて自分でそう思いました。
それに対する解答を出すとすると、
「後から変えられない要素」と「変えられる要素に分ける」という見方をして、後から変えられない要素が自分の要求に合致したため、という答えになります。
まず、
後から変えられないor変えるための費用がきわめて大きい要素
- 構造
- 材料
- 弦長
- ネックの太さ・形状
比較的簡単に、後から変えることのできる要素
- ナット
- サドル
- 弦高
- ネックの反り
こうして個々の要素をグループに分けて考えます。
木材やブレイシングの配置といった、音の根幹を成す材料や構造を変えることはできません。
しかし、今回調整したようなナット・サドルといった小さなパーツには、取り替えることで楽器の魅力を更に引き出せる余地があると思います。
演奏性の面でも、少し反ったネックをまっすぐに戻したりサドルを削って弦高を下げることは簡単にできますが、
ネックをV字から平たい形に削り直してくれ!…なんて言ったら大工事ですし、音の響きも大きく変えてしまうでしょう。
このように、楽器の基本的な要素において自分の要求が満たされていれば、後からカスタマイズが利く部分の違和感は、調整でクリアできるだろうという感じです。
とは言っても、この考え、常にリスクは伴います。
何かを変えることは全体のバランスを変えることでもありますからね。
慎重に見極めないといけません。
「この選手は怪我しているけど、実績や将来性は最高!獲得しよう!」
↓
「結局怪我が治らず、活躍できませんでした…」
とても悲しいことですが、世の中はこんな話で溢れてますから…
もう一段自分に合った楽器に
もちろんメーカーや個人製作家は、音も弾きやすさも、限界まで良いものを追及して楽器を作り上げます。
一方で、特に弦高などのセッティングについては、弾く人の好みに大きく左右されます。
個人製作家と直接相談してオーダーするような場合でない限り、楽器は作り手にとっての標準的な仕様でお店に並ぶでしょう。
作り手も、どんな人がその楽器を弾くかまではわかりませんからね。
そこに調整を加えて自分に合った状態にすることで、真に「自分の楽器」となるのではないでしょうか。
「店頭で一目惚れしてそのまま持ち帰ってきた!今まで弾いた楽器の中で一番弾きやすい!」
「学生の頃からの思い出の楽器です。ずっとこの一本を使い続けたい」
それは素晴らしいことです。おめでとうございます。
でも、もし買ったままの状態でその楽器を使い続けているとしたら、もっと良くなる余地があるかもしれません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
もうちょっと調整については書こうと思います。